トライアスロンのスイム(水泳)はほとんどの場合海で泳ぐことになりますし、皆さんのイメージもそういったものだと思います。
中には湖やダム・川などを使うケースもあり、プールを使用しての大会も一部では行われております。
ただ、いずれトライアスロンの大会を目指すのであれば、海での泳ぎ方や注意点をしっかり認識しておかなければなりません。
実際に、毎年のようにトライアスロン大会ではスイムでの死亡事故が絶えません。
そのほとんどは体調不良が原因ですが、海で泳ぐことの厳しさを事前に知っておくことも必要でしょう。
海とプールの基本的な違い
そもそも海には波があり、底は深く足は着きません。
それに対してプールは基本的に波がなく、ほとんどの場合は足が着きます。
海とプールの物理的な違いは「波」の有無ですが、心理的な違いは「足が着く」かどうかということでしょう。
更に技術的な違いを上げるなら、方向が分かるかどうかです。
イメージとしてはそんな感じでしょうが、実際に泳いでみると思っていた以上にその壁は厚いものです。
海の波はただ単にユラユラ揺れているわけではなく、風の影響で一定の方向に流れているので泳いでいる間はずっと続きます。
ところがプールでも波のような感じになる時がありますよね。
あれはプールのどこかで泳いでいる誰かが起こしている現象なので、一定ではありませんし一時的なものです。
それに海の波とプールの波ではそもそも大きさが違うので、比較する必要もないかもしれません。
そして、海で泳ぐ際の心理的な違いは「足が着かない」ということです。
足が着かないところを泳ぐ経験というのはなかなか無いと思います。
水泳の国際大会などを行うプールは水深が2m以上ありますので、普通の人では足が着きません。
このようなプールでは必ず50mは一気に泳がなければなりませんし、場合によっては折り返しでも足が着かないので100mを一気に泳がなければならない計算になります。
足が着かないという心理的な影響はかなり大きなものになりますし、水深が深いと手に掛かる水自体もとても重く感じます。
プールでさえ底が深くなるとこれらの心理的な影響があるのに、それが海であれば尚更その影響は大きいと言えるでしょう。
最後に最もタイムに大きな影響を及ぼすと思われるのが、泳ぐ方向が解らなくなるということです。
プールであればコースブイや底のラインなどがあるので真っすぐ泳ぐのが当たり前ですが、海や湖にはそんなものはありません。
ということは自分は真っすぐ泳いでいるつもりでも、とんでもない方向に泳いでいることが結構あります。
もしも、ちょっとずつでも斜めにジグザグに泳いでしまえば、最終的に泳ぐ距離は1~3割りほど増えてしまうこともあります。
1,000m泳いだつもりが、最終的に1,200m泳いでいたとしたら、タイムの違いが相当なものになるということは想像が付くでしょう。
海とプールは上記のように「波」と「水深」と「方向」が違うことによって、プールで泳いだ時とは全く違う感覚と結果になる、ということをまず自覚しなければなりません。
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初心者が海で泳ぐ時のポイント
プールで普段から何時間も泳いでいる人にとっては、海で泳ぐことはそんなに難しいことではないかもしれません。
それだけ「水に慣れている」ということも、先ほど書いた様々な影響を防ぐポイントになるかもしれません。
ですから技術的なことは当然ですが、「これだけ泳いできたんだから」という自信も海で泳ぐためには必要になることもあります。
では、初心者の方が実際に海で泳ぐ時のポイントをいくつかご紹介したいと思います。
先ほどの基本的な違いで最初に書いた「波」への対策ですが、まずひとつ言えることは完璧を目指さないことです。
波があるとちゃんと息継ぎが出来ない時がよくありますので、焦って余計な力を使い普段の泳ぎが出来なくなることもあります。
ですから、1回や2回息継ぎが出来なかったからといって焦らず、8割くらい出来ればいいくらいに考えましょう。
その上で、プールで泳ぐ時よりは少し大きく顔をねじって息継ぎするようにすれば、意外と何とかなります。
これまでプールで泳いでいた時にも、隣のバタフライの人の波で息継ぎが出来なかった時があったはずです。
そんな時でもちゃんと泳いできたのだから、海だからと言って焦らず次で息継ぎ出来ればそれで良しと考えましょう。
続いて足が着かない心理的な影響ですが、これは本当に心理的なものなので慣れで克服するしかありません。
とは言っても、実際にレースが始まれば怖いと思うのは最初の2~3分だけで、ある程度泳げばすぐに気にならなくなります。
それにトライアスロンの大会ではほとんどがウエットスーツを着用するので、余程でない限り溺れてしまうことはありません。
ヤバいと思ったらいったん犬かきで休憩してもいいし、少しの間平泳ぎで泳いでもそんなにタイムは変わらないものです。
焦ってしまい息が上がったまま強引にクロールを続けるよりは、平泳ぎや犬かきで少し休んだ方が結果的に良い泳ぎが出来たりするものです。
最後に一番厄介なのが、方向を見失うことかもしれません。
先ほど書いたようにちょっとだけジグザグに泳ぐだけで、あっという間に数百メートル余計な距離を泳いでしまいます。
こんな勿体ないことはないです。
だから時々前を見て、ある一定の間隔で泳ぐ方向を常に確認する作業が必要なのです。
一番簡単なのは、先ほど言った犬かきや平泳ぎをしながら方向を確認するのが楽です。これなら確実に方向を確認することが出来ます。
しかし、10分くらい泳いで海での泳ぎに慣れてくると、それを繰り返すのが逆に勿体なく感じてくるでしょう。
ですから「泳ぎが安定してきたら」時々ヘッドアップと言って、クロールの手を前に出す瞬間に顔を上げる動作を入れていきます。
これはある程度の慣れが必要なので、プールで泳ぐ時に必ずやってみましょう。
もちろんこのヘッドアップの際に息継ぎも出来ればグッジョブです。
とはいえ、このヘッドアップだけで方向を確認するのは正直言って難しいです。
顔を上げて前を見ることが出来るのはほんの一瞬なので、その瞬間に水に浮かんでいるブイなどを判別するのは初心者には至難の業です。
そこで状況にもよりますが、近くにある防波堤や灯台・向こう岸の建物や山などを目標にするのもひとつの手です。
そういった目標物が見えない時は使えませんので、その時はブイが確実に確認できる方法に頼らざるを得ないかもしれません。
海で泳ぐ時の危険
あえて言うまでもありませんが、海で泳ぐ時には沢山の危険が潜んでいます。
予想外の岩や浮遊物、クラゲなどの危険な動植物がいることもあります。
海水を飲んでしまうことでのどが異常に渇き、場合によっては脱水症状になることもあります。
更には冷たい水に長い時間入っていれば低体温症になり、体の自由がきかなくなることも考えられます。
そして一番怖いのが、体調不良のまま泳いでしまうことです。
睡眠不足や持病を抱えたままレースに出てしまうことなどで、トライアスロンの大会中に死亡する人が絶えないのも事実です。
トライアスロンのレースは必ず「水泳→自転車→マラソン」という順序になっているのは、危険度が高い順番になっているのです。
もし何かあった時でも走っている途中ならすぐに救急車を呼んで運べますが、海で泳いでいる最中に体調不良になってもすぐには対処できません。
もしも、トライアスロンの大会前に体調不良だと感じた場合は、勇気ある出場断念なども命を守るためには必要なことです。
まとめ
海で泳ぐこととプールで泳ぐことは技術的にはほとんど同じですが、心理的には全く違う状態になるということを理解しなくてはなりません。
その上でプールと同じつもりではなく、途中で休憩するくらいの余裕を持って「スイム」という競技を安全に完成させなければなりません。
最初の競技で何かあれば次の競技には全く進めない訳ですから、スイムという競技を確実に泳ぎ切るための対策が必要でしょう。